死刑制度は本当に「やむを得ない」のか 続けるリスクを考える
死刑廃止に取り組む英国のNGO代表が本紙のインタビューに応じ、日本政府が5年に1度行う死刑に関する世論調査を「やめるべきだ」と主張した。
死刑に関する情報提供をほとんどしないまま、単純な選択肢しか用意していないからだ。死刑廃止に世論は関係ないのか。55年前に死刑を廃止した英国が示すものとは―。(大杉はるか)
◆政府の世論調査で「廃止すべき」は9%だが…
「この15年で、来日は8回目だと思うが、日本は変わらない。世論だ、世論だという」
英NGO「死刑プロジェクト」の共同設立者ソール・レーフロインドさんは顔をしかめる。30年以上前から各国で死刑囚の司法援助を行い、死刑廃止も支援してきた人物だ。
昨年7月に124番目の死刑廃止国となったアフリカ・ガーナでも、議会や市民団体に助言をした。
今回は東京・府中市の府中刑務所を視察したほか、日本での死刑論議を前進させる目的で、超党派議員連盟「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」の議員や死刑廃止国際条約の批准を求める市民団体「フォーラム90」のメンバーらとも意見交換したという。
そのレーフロインドさんが問題視するのは、内閣府が5年に1度行っている死刑制度に関する世論調査。直近は2019年で、20年に公表された結果では「死刑は廃止すべきだ」が9%、「死刑もやむを得ない」が80.8%、「わからない」が10.2%だった。死刑容認は4回連続で8割超となった。
死刑廃止が世界的潮流となる中、日本政府が維持の根拠とするのが「世論」だ。国際人権規約に関する22年の政府報告では、「国民世論の多数が『死刑もやむを得ない』と考えていること」や「凶悪犯罪が後を絶たない状況」を理由に、「死刑を廃止することは適当でない」と従来の主張を繰り返した。
◆死刑制度維持は「日本の評判」を落としている
では死刑に関する世論調査は不要なのか。レーフロインドさんが強調するのは、調査主体の変更だ。
「日本から独立した、刑事罰に関する世論調査の国際的専門家が調査し、日本政府に結果を報告すればよい」
ガーナをはじめ各国でこうした調査は行われてきており、「(結果は)世論の死刑支持は抽象的で、説得しうるものだということを示す。国会議員にも良いデータを提供することになる」と説明する。
死刑制度を維持していることは、日本の評判を落としているという。
「死刑は基本的人権と相いれない。残虐で、(執行が)恣意(しい)的で、誤判の危険がある。それが死刑。維持することはできない」とレーフロインドさん。
「遺族感情」が死刑支持の理由に挙がることもあるが「被害者が求めているのは、何が起きたのかという情報提供、精神的経済的なサポートだ。
全員が死刑を求めているわけではない」と否定する。「死刑に犯罪の抑止効果があるという科学的証拠はない」
◆「廃止」へ動く日弁連、「終身拘禁刑」の創設も提言
日本国内では日本弁護士連合会(日弁連)が死刑に関する議論を活発に行っている。2月29日には、日弁連が呼びかけ、法曹関係者や国会議員、学識経験者ら委員16人でつくる「日本の死刑制度について考える懇話会」が発足。方向性について議論を重ね、今秋に提言を取りまとめることを目指す。(宮畑譲)
日弁連は2016年の宣言で、死刑制度廃止の立場を明確にした。また、22年には、代替刑として、例外的な減刑制度を含めた終身拘禁刑の創設も提言した。
政界では、18年に死刑制度を考える超党派議連が設立された。
今回発足した懇話会には、林真琴前検事総長や中本和洋元日弁連会長、金高雅仁元警察庁長官、「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」会長の平沢勝栄衆院議員、「被害者と司法を考える会」の片山従有代表ら幅広い意見を持つ有識者が集まった。
◆デスクメモ
死刑が「日本の評判を落としている」と聞いて思い出すのは、自白するまで身柄を拘束する「人質司法」。劣悪な環境で働かせる「外国人技能実習制度」もあった。
世界の潮流から、ずれた人権感覚…。ひょっとして観光では訪れても、それ以上付き合いたくない国になっていないか。(本)
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