山でヘンテコな鳴き声の生物に襲われた話
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子供の頃の不思議な体験。
俺ん家のすぐそこに山があるんだけど、今の時代だとグーグルマップで見ればどのくらい広い山だったか簡単に確認できるのな。
子供ながら結構低い山だなーって思ってたんだけど、調べたら俺の地元の町が三つか四つくらい入るほど広大で驚いた。
子供の頃は、その山に入って栗とかどんぐりなんか拾ってたし、友達と一緒の時は山の中で鬼ごっこやかくれんぼなんかしてよく遊んでたんだけど、今思えばよく遭難しなかったななんて当時の俺を褒めてあげたい。
実際は、中腹くらいからでも意外と見晴らしがいい場所があるし、木々の隙間から町並みが見えるから遭難することはなかったんだけどな。
でも、実は一度だけ俺はその山で遭難っていうのか、迷子になった事があるんだ。
当時はその事を親に言っても信じてもらえなかったけど。
子供の俺はその日も山で一人で探検ごっこして遊んでたんだけど、拾った木の枝なんか振り回して蜘蛛の巣もおかまないなしに山道を突き進んでたんだ。
すると、何か奥の方から『クゥ、クゥ、クゥ』なんて鳥か小動物っぽい鳴き声が聞こえて来たから「なんだろう」って思い、声のする方へ登ってみた。
最初は全然鳴き声との距離感が縮まらなくて不安になってきたんだけど、もう十分以上くらい声を頼りに奥深くまで入ると、ちょっと平らな場所に抜け出た。
で、その平らな場所に隠れ家みたいな小さな小屋があった。
小屋か納屋か知らんけど、廃屋みたいな古びた外観だった。
でも、森林に囲まれて苔や蔦が生えた退廃的な感じが妙に神秘的で「ほえ~」なんて見とれて圧倒されてた。
でも『クゥ、クゥ』という小さな鳴き声はそこから聞こえてるようだった。
俺は今にも崩れ落ちそうな風化したドアをノックした。
「だれかいますかー?」
勿論、返事なんかある筈がないと思ってたんだけど、何かドタドタと音が鳴ったと思ったらドアが『バン』と勢いよく開いた。
そのせいで俺はドアと一緒に吹き飛ばされて後ろに転げたんだけど、「いってー!」と声を出して見上げれば目の前に変な動物?が居て困惑した。
というのも、小屋から出てきたのは、人間みたいな体型に口だけ土竜みたいなヘンテコな見た目をした動物。
大きさは子供の俺と変わらないくらいなんだけど、腕は胴体の左右じゃなくて、胸と背の前後に生えてた。
そして、両足は膝下あたりまで水掻きみたいな膜がついてて、基本的にはケンケンするように歩いてる。
その体の作りのせいか、姿勢は横から見ると「く」の字を描いてた。
そんな感じの見たことが無い動物みたいな奴が『クフー』なんて口から息を撒きながら俺を覗き込んでた。
胸元の腕がこっちに伸びてくると、俺は咄嗟に「うわっ」って慌てて手にしていた木の枝で払い除けた。
枝先がソイツの手に当たったのが不快だったのか、ソイツは『キィーーーーーッ』と猿みたいな金切り声を発して、土竜の口を大きく開口した。
口の中は気持ち悪いくらいに糸を引いてて、鮫みたいな歯が奥まで生えてた。
それを見て、俺は「あ、喰われる」と思って翻って逃げ出した。
俺が背中を向けて逃げ出した時、猿の金切り声が重なって聞こえた。
走りながらだけど気になってちょっとだけ振り返ってみると、小屋の中から同じ見た目の生物が二体、三体と出てくるのが見えた。
「やば」と呑気に口にしつつも、俺は本気でその場から離脱を始めてた。
枝木なんか関係無しに風を切るようにして下へ下へ向かって走った。
何度も転びそうになってはぶっとい木に衝突しかけたが、幸い大きな怪我も無く、衝突は回避できたし、たぶん人生で一番早く走れた気がするほどその時の俺の足は速かった。
でも、そんな猛スピードで下山してるのに一向に町並みは見えてこなかった。
いつもなら斜面が下る方を向けば、うっすらと町の輪郭というか、木々の向こう側に建物の影が肉眼でも見る事ができる。
それなのに、どれだけ下っても建物一つ見えてこなかった。
不思議なことに枝木の先にはひたすら山道が広がってた。
町が見えてこないせいで急激に疲労が襲ってきた。
さっきまではアドレナリンが分泌されてたのか、全然疲れなかったんだが、一気に心臓にきた。
足を止めて近くの大木に寄り掛かり息を整えるついでに後ろを振り返る。
あのヘンテコな生物は追ってきていないようだった。
逃げきれた。
そう思った矢先、遠くの方から『ホオオオオン』と遠吠えみたいな叫び声が聞こえた。
聞いたことが無い鳴き声だったけど、すぐにアレの声だと思い到った。
アレが追いかけてきていると思い、俺は息をつく暇もなく再び下山を始めた。
それから何時間下山をしているのか分からないくらい山道を下っていたと思う。
最早疲労困憊で走ると言うより足を引きずるように小走りだった。
日は既に傾いていて夕暮れになり、一向に山を抜け出せないから半泣きで鼻をすすっていた。
変な鳴き声は遠くの方からだがずっと後方から聞こえてくる。
終わりの見えない鬼ごっこをさせられている気分だった。
夜になったら何も見えなくてまともに歩けなくなると不安だったが、ちょうど巨木が倒れて屋根になった穴倉もどきを見つけた俺は、ひとまずそこに身を潜めた。
夜になれば当然気温が下がり肌寒くなってくるし、疲れ果てたせいかお腹が空いていた。
今頃両親は俺を心配して探しているだろうか。
今日の晩御飯は何だったんだろう。
そんな事を考えれば考える程、お腹は空くし、涙が出てきた。
どのくらいその場に居たか分からないが、いつの間にか俺は体育座りした状態で眠っていた。
それでハッと飛び起きて周囲を見渡したら既に朝になってて、昨日の変な生物がいないか倒木の穴倉から身を乗り出して確認したが、どうやら気配はないっぽい。
下山するなら今しかないと思った俺は、寝起きすぐに立ち上がって、立ち眩みと戦いながら山を下り始めた。
だが、数分もしないくらいかな。
また遠くの方だが『ホオオオン』って遠吠えが聞こえたからかなりビビった。
続けて風なのか分からないが、何か周辺の草木がガザガザガザっと揺れ始めるもんだから、いよいよ生きた心地がしなかった。
それでも必死に山を降り続けたんだけど、茂みを抜けたところで俺は愕然とした。
俺が飛び出した所は、昨日変な生物が出て来た小屋がある場所と瓜二つだった。
開いたままの建付けの悪そうな木製のドア。
見慣れた小屋がそこにある。
そして、俺が踵を返そうと後退りした時、ガササササと一気に距離を詰めるように昨日見た変な生物が飛び出してくると俺の周りを囲む。
体を「く」の字にうねうねさせながら、土竜みたいな口を開口して、何やら仲間同士で『ガウ』とか『ゲギャ』みたいな変な鳴き声で会話してるみたいだったけど、俺はもう腰が抜けてその場に座り込んでた。
そしたらそいつらの中の一人が胸元の腕を伸ばして俺の髪の毛を掴むと、小屋まで引き摺った。
禿げる程痛くて「いたい!やめて!たすけて!」って叫んだけど、そいつらは仲間うちで鳴き声で会話するだけで、俺に見向きもしなかった。
小屋の中に変わったものはなかった。
中心に囲炉裏みたいなものが設置されてて、大きめの鍋がぶら下がってた。
それを見た瞬間、(え、俺のこと食うの?)って震えたが、俺の髪の毛を掴んでた生物は小屋の中に俺を連れ込むと隅のほうへ乱雑に放った。
「ぎゃっ」と背中からぶつかったせいか変な声が出てのたうち回る。
すぐに体を起こそうとすると、生物が二人掛かりで俺の片手と片足を押さえつけて『クゥクゥクゥ』と何か合図を送るように鳴いた。
俺は必死に体をよじって抵抗するが、次の瞬間、左腕に激痛が走った。
「ああああああああああ!」と叫ぶと同時に腕を折られた事を悟った。
続けざまにゴキゴキッって音が聞こえると左脚から全身に激痛が走った。
足も折られたぽかった。
もう絶対に殺されると思った俺は最後に思い切り「だれかあああああああああ!」と絶叫したんだけど、その時、目の前に変な生物が棒状のものをちょうど振り上げている瞬間が目に飛び込んできて、「あ」と声が漏れたと同時に暗転した。
死んだと思った。
でもなんか、気が付くと風が吹いてるのか木々が揺れる爽やかな音が耳に届いて、目を開けると木漏れ日と空に透けた木が広がってた。
俺は仰向けに倒れてた。
起き上がろうとすると体中が痛くて、ふと左腕と左脚を見ると変な方向に曲がってて「ひ、ひゃあああああ」って上擦った悲鳴が出た。
それから激痛で泣きながら匍匐前進するようにその辺を這いずってると、獣道?ではないが、人が長年踏み固めて出来たような土の道に出て、その向こう側に広がる景色に工場の煙突とか色んな建物の屋根が見えて泣くほど喜んだ。
芋虫みたいにズリズリと這いずって土の道を進んでたらウォーキングウェアを着た初老くらいのおばさんと遭遇して、おばさんが「ぎゃあああ」って悲鳴を上げたから俺も「わあああ」って驚いた。
だが、すぐにおばさんは俺のところに駆け寄ってくると「だだだ、大丈夫?」ってパニックになりながらも慌てて携帯電話をポーチから取り出して救急車か誰かに電話してた。
俺はというと、普通の人間に会った安堵感から消え入るように気を失った。
で、目が覚めると病室にいて、母親がベッド脇に立ってた。
俺が「おかあさん?」と呼びかけると号泣しながら抱き付かれてすごい痛かったが、それ以上に家族の許に戻れたことが嬉しかった。
そして、医者や両親から聞いたんだが、俺は山で滑落して全身強打したらしい。
幸い死ぬような高所からじゃなかったのか、固い地面か木とかに体が叩きつけられた際に左腕と左足が骨折したのだろうと説明された。
それで転がった先が運よくあのおばちゃんのウォーキングコースだったから衰弱する前に発見されてすぐに病院に運ばれて助かったと聞いた。
でも俺は覚えている。
俺は滑落してないし、変な生物に襲われた事を。
俺は子供ながらその体験談を母には話したんだが、母は「猿に追いかけられたんね?もう山に入っちゃダメよ!」てな感じで猿か猪に俺が追いかけられて滑落したんだと思われた。
子供の言う事だから猿とかの動物を恐怖心からバケモノみたいな生物に脳が書き換えたと思われたっぽい。
その時の俺はまだ入院中で精神的に疲れてたから反論もせずに「ごめんなさい」と素直に反省した素振りをみせて、事故について訂正する気力はなかった。
それに、山での出来事を忘れ去りたかったのかもしれない。
俺はあれから一度も山に入る事は無かったんだけど、俺が高校に入ったちょっと後のことだったかな。
何かあの山で大量の動物たちの骨が見つかったらしい。
ただの動物の骨ならそりゃ鹿とか猪がいるんだから有って当然だろうと思ったが、中には人骨らしきものが一部混ざってたそうだ。
詳しい話は知らないが、当時の地元では「殺人?」「遭難者?」「事故?」と色んな憶測が飛び交ってたが、続報が無かったからすぐに話題から消え去った。
だが、俺はグーグルマップを開いて当時の記憶を頼りにしながら例の山を確認してみた。
すると、意外と大したことの無い広さに驚愕するが、所々山の禿げた場所を見ては「ここだったかなー」とか「この辺だっけ」と呟きながら、山の中にあった小屋の場所を探していた。
まあ小屋らしきものはグーグルマップでは見つからなかったが。
それでもう高校生になったし、当時と比べて恐怖心も薄れてたから直接山を登って探すことに決めた。
何年ぶりかの入山だが案外景色を覚えているもので、俺は軽やかに「こっちっぽいな」と茂みの中を進んでいくのだが、やっぱり小屋は見つからなかった。
あの山の中の平らな場所らしき所は見つけたんだが、小屋なんて無かった。
記憶も随分と頼りにならないくらい色褪せてるので、その場所が小屋があった場所と断言できないが、俺はあの小屋が消えたと感じた。
当時は必死で気が回らなかったが、入山からこの場所まで高校生の足で僅か二十分もしなかった。
あの時は随分とさ迷っていたと思ったが、遭難でよく聞く、同じ場所をぐるぐる回るというものを再現していたのだろうか。
俺としては、斜面を下るようにひらすら下へ降りていると思っていたのだが、高校生になった今、その辺りの記憶が曖昧になっている。
だが、そこから当時を振り返って小屋の場所から逃げた方角に下山してみると、当時見た景色と合致するくらいそっくりな工場の煙突や屋根が確認できたし、助けてくれたおばちゃんと出会った土道にもちゃんと出れたのだ。
時間にして十分ちょいだった。
当時は一晩も駆けずり回ってやっとのことで山から抜け出せた場所なのに、グーグルマップで位置を確認すれば、俺が入山した所からそんなに距離は開いていなかった。
たぶん、麓をぐるっと迂回して辿り着ける場所かな。
いったい当時の俺はどこを走り続けていたのだろうか。
今では、例の小屋も見つからないし、こうして入山してもあの変な生物もヘンテコな鳴き声も聞こえない。
それでも俺は発見された動物の骨の中で見つかった人骨は、恐らくあの変な生物に襲われた被害者ではないかと疑っている。
俺は運よくあの生物から逃げる事ができたが、きっと俺と同じように山に入ってあの生物に襲われた人が居るんだと思った。
あのヘンテコな鳴き声が人を誘う合図なのかもしれない。
もし山に入って『クゥ、クゥ、クゥ』と聞こえたら、引き返す事をおすすめする。
たぶん、鳥とか小動物じゃなくてあの変な生物の可能性もあるから、興味本位で声を追わない方が良い。
俺みたいに生きて帰れる保証はないからな。
書ける能力ある人は、こういうところに書くようになって
こんなところにはもう書かないんだろうな
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